小説の主人公の作り方

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ストーリーは思いついて、キャラクターも何人か思いついているのに、主人公が決まらないということはないでしょうか。

この記事では、主人公の決め方について書いていきます。

目次

主人公は誰?

脚本の本では以下のような事が書かれています。

・主人公は一番大変な目に遭う人

・主人公は一番苦しむ人

・主人公は一番感情的な人

・主人公は物語を通して一番学ぶことになる人(変化する人)

これを見るともっともに思えますが、脚本の本が言っているのは「映画」の事です。

映画の場合はそもそも小説で言う一人称で描くことは難しく、だいたい三人称視点で描くことになります。

つまり、脚本がどうであろうと画面内で一番目立つ人が主人公になってしまいます。

しかし、小説だと一人称でも書けるし心情も詳しく書けるので、別に目立ってないキャラクターを主人公にすることも出来ます。

じゃあ、小説の場合、現実的には誰を主人公にすればいいかというと、

現代の読者が見ていて一番面白いキャラクター

です。

例として「魔王を倒す勇者パーティ」の話を考えます。

勇者は一番苦しんで戦う人物で、他のパーティは勇者を補助する立場だとします。

脚本の本で語られている事をそのまま信じると、この中で一番苦しむ勇者を主人公にしないといけなくなります。

しかし、魔王を倒す勇者の話なんてもう何度も繰り返されていて、そんなストレートな話は見飽きています。

むしろ、他のパーティメンバーの視点の方が新しく面白く感じるでしょう。

脚本の本で語られている事とはずれてきます。

脚本の本で語られている事は「原則論」であり、現代の読者はその原則的な話を浴びるように読んでいるので、逆にその原則に飽きていることがあります。

ですので、現代の読者の感覚を持っているあなたからみて一番面白い視点を探しましょう。

その物語、勇者の視点で書いた方が面白いですか? それとも補助役のパーティから見た方がおもしろいですか? それとも村人の視点から?

 

主人公の4つの型

主人公には4種類居ると言われています。

英雄

主人公>読者

完璧でないとしても、有能であり、読者よりも上位の存在です。

読者は主人公に共感するのでは無く、尊敬の念を持って見ることになります。

普通の人

主人公=読者

読者と同程度の普通の人間であり、能力にもむらがある普通の人です。

読者は共感を持って主人公を見ることになります。

負け犬

主人公<読者

社会的弱者・敗者など、恵まれない人生を送っている主人公です。

読者は主人公に同情し、救われることを願いながら読むことになります。

アンチヒーロー

主人公=読者の裏の欲望を体現した物

人を殺したり、女を強姦したり、正義とは逆の悪事を堂々とする主人公です。

読者はこの主人公に同化することで、日頃の鬱憤を晴らすことができます。

 

感情移入しやすいのは?

どんな主人公を設定するかは作者の自由ですが、読者と対等で感情移入しやすい主人公にしたいのであればコツがあります。

●頭脳:読者よりほんの少し上

読者は自分より馬鹿な主人公には苛ついて感情移入してくれません。

例えば敵が待ち伏せているのが明らかなのに、それを考えずに突っ込んでから「敵が待ち伏せていたか!」と言い出す主人公がいたら読者は見放します。

かといって主人公が余りに賢くて読者が理解できないような思考をしても、やはり読者はついて行けません。

なので、読者よりほんの少し頭がいい程度の設定が無難です。

●収入:読者よりかなり下

収入というのはわかりやすく嫉妬の対象になります。

いくら性格が良くて頭脳レベルも読者としっかり合っていても、主人公が大金持ちだと読者は反感を持ちやすいです。

反感を防ぐために収入は少なめにしておくのが無難です。

 

鑑賞対象としての主人公を作るには?

感情移入するための主人公とは別に、鑑賞して楽しむタイプの主人公もいます。

例えば、一生懸命頑張る女の子の主人公を見るような作品です。だいたい、コメディ作品です。

そういう作品の主人公を作る場合は、単純になにかの点で知的レベルを最低にします。

読者は自分より遙かに賢い人物には脅威を感じるので、賢くない人物にすることで脅威を感じずまったりと楽しめるのです。

 

英雄型の例:自分に自信があり能力もすごいけど、恋愛にとても疎い。

普通の人の例:そつない社会人だけど、恋愛になるとポンコツ。

負け犬の例:恵まれないながらもがんばっているけど、うっかりしすぎて財布を落とす。

アンチヒーローの例:悪人だけど、頭が馬鹿すぎて結果的にいいことをしている。

 

目的

他の記事でも書いていますが、主人公には目的が必要です。

目的が無いと、意味も無くフラフラしているだけになってしまい、読者はそんな主人公に興味をひかれません。

わかりやすい目的では無く「○○というコンプレックスと戦う」といった内面的な目的なこともあります。

 

障害

目的には障害がないと非常につまらなくなります。

好きだ→告白しよう→告白した→付き合った

なんて話があってもおもしろくありません。

告白しようとしても「勇気が無い」という障害があったり、告白しても「相手が他に好きな人が居る」という障害があったりするから盛り上がりますし、物語になります。

ちなみに「障害」という書き方をするとつらいものというイメージになってしまいますが、別に障害はつらいものである必要はありません。目的を阻害するものであればなんでもいいのです。

例えば、「好きな人に告白したいのに、自分のことを大好きな幼なじみが邪魔してくる」みたいなラブコメなら、障害すら楽しい物になります。

 

リスク

目的に対して失敗したときのリスクが高いほど盛り上がる話になります。

「告白して付き合えないとライバルに取られる」よりも「告白して付き合えないと運命が狂って自分が死ぬ」方が盛り上がります。

盛り上げたい場合はリスクを大きくするのが一番楽です。

ただし、シリアス度は上がるので、軽い作品にしたいときは要注意です。

(落ち着いた話にも良さがあるので、なにがなんでも盛り上げないといけないというわけではないですが)

 

重要な要素:『謎』

物語に重要な要素として、「謎」があります。

読者は「謎」があるからそれが気になって読むわけです。

「この主人公はどうなってしまうんだろう」

「これから先なにが起きるんだろう」

これが謎です。

主人公の目的・障害はこの謎を生むための物です。

「なんとなく生きている主人公に何が起きるのか?」よりも「殺人鬼を追っている主人公。そして、主人公は気が付いていないがその殺人鬼は主人公を罠にかける準備をして待っている。果たして主人公に何が起きるのか?」のほうが気になりますよね。

逆に言うと、実は「どうしても知りたくなる謎」が作れれば主人公の目的も障害が無くても物語は作れてしまいます。

安楽椅子物ミステリーなんて完全にそうです。

安楽椅子の上に居るのだから、主人公になにも危険は訪れませんし、そもそも終わった事件です。

 

 

アクティブ型とノンアクティブ型

主人公にはアクティブ型とノンアクティブ型があります。

アクティブ型は自分の希望や障害に対して能動的に行動する主人公で、ノンアクティブ型は能動的では無く「仕方なく行動する」タイプの主人公です。

ノンアクティブ型は下手をすると読者がイライラしてしまい、読者に嫌われやすい傾向があります。

かといってアクティブ型も度合いが高すぎると「暑苦しい」となってしまいます。

ここに正解はなく、読者層と時代背景で共感される主人公は変わっていきます。

 

 

感情移入:キャラクターの状態

基本的に読者は作品の登場人物を批判的に見ます。

主人公に対して批判的に見られると作品を楽しんでもらえません。

そこで、いち早く読者を主人公に感情移入してもらわないと行けません。

感情移入というのは主人公と一体化することだけでなく、他人として共感することも含みます。

不当な扱いを受けている

周囲の人間から嘲笑されている、侮辱されている、無視されている、といった主人公だと読者はかわいそうに思って感情移入します。

補足:周囲の人間に主人公が認められる展開になって欲しい。という期待も同時に持ちます。

ただし、度が過ぎたりあまりに不自然だと読者が冷めてしまうので、自然にやる必要があります。

不幸な出来事に見舞われている

最愛の人を失う・大金を失う・運に見放される。

そういった不幸な出来事に見舞われた人にも読者は感情移入します。

補足:不幸な主人公が幸福になって欲しい。という期待も同時に持ちます。

ハンディキャップがある

身体が不自由・知的障害・依存症・難病といったハンディキャップも共感を呼びます。

補足:そのハンディキャップを乗り越えて幸せをつかみ取る展開を読者は期待します。

過去の深い傷がある

過去の出来事がトラウマとなっている人物も共感を呼びます。

・過去に死なせてしまった人への罪悪感

弱っているキャラクター

そのキャラクターが弱っている状態は読者の共感を呼びます。

裏切られている・騙されているキャラクター

そのキャラクターが裏切られている・騙されている場合も読者は感情移入します。

裏切られている・騙されていることを主人公は知らず、読者だけが知っている状態にする必要があります。

本当のことを言っても信じてもらえないキャラクター

本当のことを言っても信じてもらえない状態とは言うのは、端から見ていても非常に腹立たしくなります。

なので、主人公がその状態に置くと、読者は信じない相手に腹を立てると同時に、主人公に強く同情します。

孤独なキャラクター

本当は他人と一緒に居たいのに孤独になってしまうキャラクターには、読者は感情移入してくれます。

危機に瀕したキャラクター

いろいろひっくるめて、とにかく危機に瀕しているキャラクターには読者は興味が引かれます。

俺TUEEEE系主人公は危機がないので読者は感情移入しずらく、「気に食わない奴が調子に乗っている」と思われがちです。

 

感情移入:行動

上記の状態とは別に行動でも感情移入を促せます。

困っている人を助ける

普遍性があるので非常に扱いやすいです。

個人的に行動の中ではこれが一番強いと思います。

子供好き

動物好き

捨て猫を助けるのでもいいです。

優しい振る舞い

 

作者の主人公への接し方

作者が主人公にどう接するかも大きい問題です。

一言で言うと、主人公を「自分の分身」として書くか、あるいは「全くの別人」と書くかという問題となります。

主人公=作者の分身

特に一人称視点で執筆すると「自分の分身」になりやすくなります。

自分の分身には「自分そのもの」だけでなく「理想の自分」も含みます。

主人公は自分の分身ですから、読者に悪く思われたくありません。

だから、欠点はあまり作りませんし、作っても的確にフォローが入ります。

そして主人公が非難されると作者にもすごい精神的ダメージが入ってしまいます。

主人公=作者にとってただの駒

正反対の立場としては、主人公は作者とは別の人だと割り切って書く場合もあります。

この場合、主人公に欠点を持たせることも可能ですし、批判されても別の人なので作者にダメージが入りません。

結果として、主人公に読者の批判を気にせず大胆な行動を取らせやすくなります。

どちらがいいか

あくまで私見ですが、創作初心者だと自分の分身、正確には「理想の自分」として話を作る傾向があると思います。(自分も同じでした)

そうして書かれた作品は作者にとって非常に大事な作品になりますが、反面、作者が主人公を大事にしすぎるので大胆な展開を作りにくいというデメリットがあります。

良くあるのが、主人公=作者の分身の作品で脇役が活躍して主人公になってしまうことです。

これは作者が主人公を自分の分身として大事にしすぎて自由に動けず、作者的に思い入れの無いキャラクターの方が大胆に動けるので、結果として主人公が立ってるだけで他のキャラクターがバリバリ動いてしまうからです。

また、批判されると作者のメンタルが死ぬので、容易に公開できないというのもあります。

(こういう作品でうっかり批判されると下手すると二度と創作できないほどのダメージを負います)

文学的な作品なら主人公に作者の精神を入れるのは大事ですが、純粋なエンタメ作品とするとデメリットが目立ちます。

主人公は読者の興味を引くように大胆に動いた方が良いですし、主人公への批判で作者のメンタルが死ぬような状況では作業を続けられませんので、主人公を作者とは切り離して書いていく方がよいでしょう。

そういうわけで、私情を置いておいて純粋に「いいエンタメ作品を書く」ことに絞って考えると、主人公は作者とは別の人と割り切って書いた方が面白くなりやすいと思います。

 

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